群馬県伊香保温泉旅館横手の改修工事は国土交通省が公募した
住宅・建築物耐震改修モデル事業に採択されました。
建物の耐震化に向けた啓発の一環として、本工事の情報を掲載します。
■建物概要
建築物名称 : 横手館
所在地 : 群馬県渋川市
用途 : 非住宅(旅館)
階数・構造 : 木造3階建て
建築年 : 1919年
■事業概要
設計者 : 有限会社伊藤朱子アトリエ一級建築士事務所
施工者 : 有限会社高橋住建
工事期間 : 平成22年2月〜平成22年5月
■耐震改修工事の概要
構造耐震評点:(従前)0.33 ~(改修後)1.10
(木造であるので、Iw値ではなく評点で評価。木造住宅の耐震診断と補強方法
(日本建築防災協会)による。)
採用する耐震改修工法 : 耐力壁の新設。軽量化(2~3階)
強度型補強 : 耐力壁増設、構面位置変更による偏心の低減
■モデル性を有するとして評価を受けた内容
良好なまちなみ形成に資する耐震改修
道路に面した外壁部分には手を付けず、耐力壁を設ける構面を建物内側にずらし、
内部だけの改修で耐震性能の向上を図っている。
このような工事方法により、大正9年建築の木造3階建旅館の大きな特徴である
木製建具が連続する外観を維持することができる。
■プロジェクトの対象と状況
本プロジェクトの対象となる建物は大正9年建築、木造3階建の旅館である。
建築後、何度か改装が行われ、今日の形になっている。
平成19年に耐震診断を受
け、倒壊のおそれのある非常に危険な状態である
ことが判明した。
築年数が経っていること、また無理な改装が行われた形跡もあり、このような
結果になったと
考えられる。
■モデル的な提案内容の概要
○大規模木造建築の基本的な耐震補強方法の手本となることを目指して
木造旅館などの大規模木造建築は、工場、倉庫などの産業建築物とともに、現在、
数多く地方に存在しており、こうした建物は1900年代前半の建築基準法制定以前に
建築されたものも多く、現在の耐震基準を満足していない建物が多い。
また、それらは築50年以上を迎え、近年、再生か取り壊しかの選択を迫られている
ものも多い一方、こうした大規模木造建築は、地方都市の中心部に象徴的な建物とし
て残るものも多く、観光資源として期待されている。
このような社会状況の中で、こうした近代木造建築の耐震性を向上させ、安全で
魅力ある建物に改修することは、地方都市にある数多くの大規模木造建築の再生の
よい前例となることができる。
本プロジェクトでは特別な技術を用いるのではなく、大規模木造建築の基本的な
耐震補強方法の手本となるように、構造用合板による耐力壁の補強、柱頭・柱脚の
接合部補強、水平構面補強など基本的な耐震補強技術を用いることで安全性、居住
性を向上させるものとしている。
本建物の耐震改修工事は、1期工事と2期工事に分かれており、
1期工事は既に工事を終了しています。
※1期工事は住宅・建築物耐震改修モデル事業と関係なく進められ、
2期工事がモデル事業として採択されました。
■1期工事 補強方法
1期工事は1階部分のみで、基礎の補強、耐力壁の新設、柱の新設、
劣化の著しい2階床梁の交換を行っています。
基礎の補強は、既存の
無筋コンクリート布基礎に鉄筋コンクリート基礎を
横から添わせるよ
うに打設し補強を行っています(図1)。
図1.:基礎補強詳細
耐力壁は、構造用合板、筋かいを用いて必要耐力を確保し、柱頭柱脚の金物は
N値計算によって算出、現行基準に適合する金物を設置しています(図4)。
たその他の継ぎ手、仕口部分にも現行基準の金物で補強を行い、
力が適切に
伝達されるように注意を払っています(図2)。
図2:梁仕口補強詳細
その他に2階客室の環境振動等の問題を改善するため、柱を新設し、
劣化のある
梁部材は交換する等の対応を施し、建物性能の向上を図っています。
■2期工事 補強方法
2期工事は2階、3階で、耐力壁の新設、水平構面の補強を主に計画しています。
耐力壁は1階と同様、構造用合板、筋かい、柱頭柱脚金物の設置により
耐力の確保
を行い、その他の継ぎ手、仕口部分にも現行基準の金物で
補強を行います(図4)。
また、水平構面に構造用合板による補強を行い、水平構面の剛性の確保、力の伝
達を確実にさせます(図3)。
図3:床(水平)構面補強詳細
以上の補強を行う事により、上部構造評点(保有耐力Qd/必要耐力Qr)は
下表のようになります。
図4:耐力壁補強詳細例